財産開示手続きの要件
確定判決を受けたのにもかかわらず、債権者が債権を回収できない背景には、債務者が財産についての情報を隠匿しているなどの理由がありますが、同時にプライバシーの保護という観点から積極的に情報開示を追及できなかったという点もあります。
つまり、財産についての情報が開示されないのは必ずしも債務者に非がある理由だけではありません。そのような観点から、財産開示手続は誰でも気軽に簡単に利用できる制度とはなっていません。この手続の利用には以下のような要件が満たす必要があります。
- 現状では完全な弁済が得られないことの疎明があること
- 執行力のある債権名義の正本を有する債権者であること
- 債務者が3年以内に財産開示を行っていないこと
現状では完全な弁済が得られないことの疎明があること
財産開示手続を利用するには次のいずれかの”疎明”が必要です。
強制執行で申立人が債権の完全な弁済を得られなかったことの疎明をする際の提出資料
配当表又は弁済金交付計算書の謄本 開始決定正本又は差押命令正本 配当期日呼出状など
知れている財産に対する強制執行では債権の完全な弁済を受けられないことの疎明をする際の提出資料
- 「不動産を所有していないこと」「無剰余であること」を疎明する際の提出資料
不動産登記簿謄本 調査結果報告書 第三者の陳述書 聴取書 不動産登記簿謄本 調査結果報告書など
- 「完全な弁済を得られる債権が存在しないこと」、「勤務地、給料等が不明であること」を疎明する際の提出資料
商業登記簿謄本 調査結果報告書など
- 「動産に価値がないこと」を疎明する際の提出資料
第三者の陳述書 聴取書 調査結果報告書など
- 参照条文
民事執行法197条1項1号・2号、2項1号・2号 - 疎明
疎明は証明とは異なります。証明とは、ある事実について裁判官が確信を抱いてよい状態に達するまで証拠を提出することをいい、疎明とは、証明の程度までは至らないが「一応確からしい」と推測できる状態に達するまでの証拠提出活動をいいます
執行力ある債権名義の正本を有する債権者であること
財産開示手続は「確定判決を実現するため」の制度です。従って、申立人の要件は「執行力のある債権名義の正本を有する債権者」(民事執行法197条1項)となります。なお、財産開示手続における「債務名義の正本」とは次のような書面のことを指します。
執行文の付与が必要なもの
- 判決正本
- 手形判決正本
- 和解調書正本
- 民事調停調書正本
- 訴訟費用額確定処分正本
執行文の付与が不要なもの
- 小額訴訟判決正本
- 家事審判正本
執行文が必要な場合と不要の場合があるもの
家事調停調書正本(調停で養育費を定めた際の書面)
債務名義と扱われないもの
以下の書面は債務名義と扱われないので注意が必要です。
債務者が3年以内に財産開示を行っていないこと
債務者が申立の日より前3年以内に財産開示をしている場合、債権者は財産開示を要求することができません(民事執行法197条3項)。
ただし、債務者が財産開示の際に一部の財産についてのみしか開示しなかった、前回の財産開示後に新たな財産を取得している、雇用関係に変動があったなどの事由がある場合、財産開示を請求することは可能です。その場合申立人による各事由の証明が要求されます。